2018年2月4日 大阪市立中央体育館(朝潮橋)
大阪府ソフトテニス連盟による全日本インドアソフトテニス選手権大会のレポートが届いたので紹介します。
高校のソフトテニス部員が記録した資料をもとに作成された意欲的なレポートです。特に中高生の皆さんには、今後の部活動の参考になるでしょう。
文中で引用する数値は、摂津高校部員が記録した資料をもとにしていますが、性質上、主観的判断の部分を含みます。
男女計30試合を、ローカルレベルの高校生が観測し記録した非公式の数値であることを前提にご覧ください。
(公財)日本ソフトテニス連盟登録選手のうち、およそ80%は中高生(2016年度登録選手約45.8万人のうちおよそ37.3万人が中高生)ということもあり、10代の選手に伝わりやすい観戦記を目指し、実験的に数値を多用しました。大方のご理解とご指導ご鞭撻をお願い致します。
新時代の陣形と戦術の定着を大阪で目の当たりに
皆様よくご存じの通り、この大会は国内各カテゴリーのトップランカー、主要全国大会の上位入賞ペア男女各12ペアが集う国内で最も歴史あるインドア大会です。
3ペア総当たり4リーグ(7ゲームマッチ)を予選とし、1位勝ち抜けの4ペアでトーナメント(9ゲームマッチ)を行います。
男女とも天皇杯皇后杯の上位入賞ペアや日本代表ペアが覇を競い合う、貴重な観戦体験となる大会。特に女子は67年ぶりに皇后杯を高校生で制した林田/宮下ペア(インターハイも団体・個人で2冠を連覇、国体も優勝)に社会人や大学生が「挑む」という構図。
エースもミスも多くの場合で偶然発生ではなく一定の必然性があった
今回記録に用いたスコアは、ポイントごとに①1stサービスが入ったか。②ラリーは何本続き、③最後に誰が触れ、④得失点のいずれになったか。最後の打球はフォアかバックか。ストロークかボレーか。引っ張りか流しかセンターか。ミスならバックアウトかサイドアウトかネットか。1本前に相手を崩すどんなアプローチショットがあったか。ミスは必然性があったかなかったか(必然性のないミス=unforced error。以下UEと表記)を記入します。
最後に各項目を集計すると、(ローカルレベルでは)選手の癖や個性、得失点の必然性をうかがう材料になります。ただし、府県大会レベルの高校生が主観でUEかFE(forced error=相手のエースに等しい)のいずれかを瞬時に判断した私的な資料で、たとえ実質はエースに等しいFEであっても、失点した側のミスとして記録するケースが多くなりがちです。この点はご容赦願います。
ところが、今大会で間近に観察する機会を得た日本トップレベルの選手の場合、この集計を見ても(たとえば流しと引っ張りのいずれかに確率に差があるというような、またバックのローボレーだからといって率が下がるとか、こういう時に引っ張りは打てるが流しが弱いとかいう)技術的な偏向は(当然ながら)ない選手の集団だと改めて痛感しました。
また、必然性のないミス=UEはほとんどなく、エースとカウントして差し支えない必然的な返球ミスが大半。あるいは互いのリーチと予測を読み合った結果のきわどいコースを狙うが為のミス。エースもミスも多くの場合で偶然発生ではなく一定の必然性がありました。
大抵の選手が、得意なはずのフォアの引っ張りのミスが逆に目に付く程度。特に格上のペアに挑む側は、いっそうきわどいコースや球種を意図するように仕向けられていました。
中高生の皆さん、この日目撃されたミスは、ローカルな試合で見かける大量のUEとは異質なものです。上手・下手の結果のミスとは違うということを、注意深く今後動画などでご確認下さい。お示しした数字の裏ににじむ、選手たちの積年の精進の成果を、どうかご覧頂きたいと存じます。
長文の前置きとなってしまいました。どうかご容赦を。
すべての対戦の陣形について感じたこと
男子は少なくとも5ペアが基本的にダブル前衛(攻撃型並行陣)、さらに2ペアは基本的に雁行陣ながらカットサービスの1stサービスが入ればダブル前衛、と状況に即応して「最も攻撃上有利」な陣型で攻めるシナリオに習熟していた。その他のペアも含めラリー中にも変化して、様々な得点方法の引き出しを持っていることを感じさせた。攻撃型並行陣の攻撃力もよくわきまえた上で、特定の陣形に固執せずあらゆる陣形で状況に即応する力が問われている。
雁行陣でも代わる代わる前衛を務める入れ替わり雁行陣や、床上25cm程度までしか跳ねないカットサービスの1stサービスを高確率で入れて弱いレシーブを狙ったり、ラリー中にアプローチ(相手を崩す)に成功した瞬間に攻撃の配置につくなど、見た目の陣型に固執しない攻撃パターンが増えている。そこにペアの連携がみられたのは、いよいよフリー陣型の時代にトップレベルは突入したかと思わせる。
女子はほとんど雁行陣での戦いだったが、大会連覇を果たしたどんぐり北広島のペアは中本監督のご指導によるものか、コート内に入る好機を逃すことなく、ストローカーが前に詰めてスマッシュしたり、かといって並行陣への固執も見せない「裕ちゃんフォーメーション」の威力であろうか、自在な攻撃が目についた。
また、優勝ペアは予選2試合を通じ計7つのデュースゲームを戦い、その全てを制していた。技能以外にも戦略の力があるのか。
【データ分析①】男子優勝の丸中・長江ペアは予選2試合と準決勝を通じて2人とも100%の確率で1stサービスからの攻撃を貫く
かつて本大会8度優勝の中堀・高川ペアは「ペアで75%をキープ」せよと説いていた。ここでは、1stサービスの選手別の確率を別表にまとめた。
木床の(最も回転が影響し「止まる」)横向き木目という環境で、レシーブで攻撃されないためには、より厳しいサービスを追求せざるを得ず、多くの選手が本来の力より低い確率になったと思われる。そんな中で、男子優勝の丸中・長江ペアは予選2試合(計10ゲーム)と準決勝8ゲームを通じて2人とも100%の確率で1stサービスからの攻撃を貫いた。お互いの手の内を知り尽くした対戦での数字だから、もはや畏怖するしかない。
一方、女子3位の徳川選手も予選11ゲームを通じて100%だった。全日本シングルス王者の風格だろうか。「ペアで75%」を予選2試合通じてクリアしたのは男女とも12ペア中4ペアだったが、彼らのレベルではインドアでの膝まで弾むサービスはあらゆる攻撃の足がかりにされるため、より厳しく弾まないサービスを心がけざるを得なかった結果といえる。
特筆すべきは大会を連覇した女子の髙橋・半谷ペア。左利きの髙橋選手が左アンダーのクオーターから切るカットサービスでは、空中の軌道が(サーバーから見て)左から右へ曲がり落ちる。ボールは正クロス側のサービス時だけセンターに(スクリーン気味に)立つ前衛・半谷選手の背中から現れ、コートの外側を通りセンター側に曲がり落ち、バウンドすると外へ跳ねる。そこからオーストラリアンフォーメーションのようなシナリオ攻撃が可能で、クロス方向へのレシーブは、半谷選手のフォアハンドのイージーボレーとすることも可能。逆クロスでは全く違うシナリオを持つ。予選2試合でのサービスキープ率は4/4=100%だった。
【データ分析②】予選の平均時間は男子が21分、女子が30分
試合時間は(計測できた範囲では)予選の平均で、男子が21分、女子が30分だった。これは一般的な試合進行の予想速度通りだった。男子予選B2-B3のファイナル15-17を含む平均、各選手と審判など関係各位の尽力のなせる技かと。
【データ分析③】ラリーの平均本数は男子予選で平均5本、女子予選で6本
ラリーの本数は男子予選12試合で平均5本(4.99)、女子で6本(5.96)。歴年、男子は女子より展開が速いが、ダブル前衛の増加でさらに速くなった。ダブル前衛同士ではボールがコート上を2往復するまでにポイントが終わる。もはや女子でもボールは3往復するかしないか。粘る力量も技能も持ち合わせている選手同士なので一方で、こんな数値もある。大会最長のラリーは(サービスを1、レシーブを2と数えて)、男子予選B1-B2第2Gの28本。女子ではC1-C2の24本。
【データ分析④】試合展開の速さの向上は著しく、見る側の意識転換と習熟が要求される
ラリーが10(5往復)を超えたポイントは男子Aリーグ3試合で10ポイント、以下、男子B14、C10、D11、女子A10、B15、C10、D22ポイントだった。ラリーが20本(10往復)を越えてもなお、互いに相手を崩す(=アプローチする)隙をうかがいつつ、遊び球を打つはずがない選手同士が粘って粘ってチャンスを狙う。そんな緊迫した長いラリーも必ず1pはあるという結果になっている。
かつての雁行陣同士で前衛のパトロールの変化や駆け引きの妙、大きく動いてポーチする華やかなボレーが勝負を左右するという光景はあまり見られなくなったが、好機を見逃さずに、動いて取るプレーも目を引く。勝負を左右するのは4人全員のマルチプレイーヤーとしての力量、状況に即応しながらペアと陣型を含めたプラン、ひらめき、戦術を共有しなければ勝機をつかめないところに、種別としては新たな深みが加わったと言えようか。何よりも試合展開の速さの向上は著しく、見る側の意識転換と習熟が要求されている。
競技者には視神経と筋肉の反応速度、瞬時のラケットコーディネーション、逆モーション時の反転速度向上のための体幹力アップ、勝ち上がるためのスタミナ、安定した集中力など、求められるものが多岐にわたり、先鋭化もしている。
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